2024年2月1日に行われた早稲田中学校の1回目の国語の入試問題を入手しましたので見てみたいと思います。
早稲田大学のホームページを見ると書いてありますのでご存じの方も多いと思いますが、同じように早稲田の名前が頭についていても、「附属校」と「系属校」があるようです。簡単に言うと、「附属校」は直系で、「系属校」は経営母体が違うということです。
東京に限定すると、早稲田大学高等学院・高等学院中等部は附属校ですが、早稲田実業学校中等部・高等部、早稲田中学・高等学校は系属校です。早稲田大学高等学院からはほとんど全員が早稲田大学へ進学していますし、系属校の早稲田実業もほぼ100%の推薦枠を持っています。早稲田高等学校から早稲田大学への推薦枠は50%程度ですが、2023年には東大に30人以上、慶應に50人以上、理科大に30人以上の合格者を出しています。他大学への進学に強いのです。
つまり、早稲田大学へ進むならば、早稲田大学高等学院か早稲田実業で、国公立も含めた他大学への進学も考えるならば早稲田中学ということになります。また、早稲田実業は高校から入ることができますが、早稲田中校・高等学校は高校で募集はしていません。早稲田高等学校へ行きたい場合は中学受験するしかありません。
早稲田中学校・高等学校のホームページには入試の過去問題が掲載されていますが、現時点では2023年度用が一番新しいです。終わったばかりの2024年の入試問題はまだ公開されていません。声の教育社から2025年度受験対策の過去問題集が4月中旬くらいに発売の予定です。
●語彙力を鍛える
大問一は東山彰良の「或る帰省」からの出題です。
問題をご覧になれない方のために、あらすじを簡単に説明します。
台湾出身で日本の大学院生の「わたし」は、幼少期から親しんでいた張家の五人姉妹のうち、三女の「三おばさん」が重病という知らせを受けて台湾に戻り、病院に「三おばさん」をお見舞いに行きました。そのときのやり取りから、「わたし」は過去に「三おばさん」との間にあった出来事を思い出し、死について考えます。さらには親しい人の死に直面した自分の心の内面を冷静に観察するのです。
大問一の問は全部で8問ありますが、解答を記述させる問題は2問のみです。選択肢が用意されている問題についてはあまり迷うことなく正解を選び出せます。
問1は文中に空いた空欄をうめる言葉としてふさわしいものを選びます。正しいもの以外の選択肢はあきらかな誤りなので解説の必要はないと思います。
問2に文中の「困ったように煙草をくゆらせる三おばさんの姿」という部分についての問題で、この時の「三おばさん」の心情を説明した文が提示されています。その説明文に2箇所、空欄が設けられていて選択肢の中から当てはまる言葉を選びます。この問題の選択肢も正解以外は明らかな間違いなので解説はしません。
問3は文中で使われる「にべもない」の意味について尋ねています。「にべもない」ということばを知っていれば、難なく選択肢の中から選び出せるでしょう。受験対策として語彙力を鍛えなければならないのは基本です。
問4と問5が記述して解答する問題です。
問4は「わたしたちの心は、いつでもわたしたちの体とはちがうところに在る」とありますが、この時の「わたし」の「心」と「体」はそれぞれどのような状態ですかと言う問題です。「心」と「体」のそれぞれの説明に「死」ということばを一度ずつ用いて40字以上、50字以内で説明するよう求められています。さらに、解答用紙には出だしの『「心」は』と締めくくりの『状態』が指定されています。
この部分、文中では文学的な表現が使われています。「自分が早くも三おばさんのいなくなった世界に順応しようとしていることに気づいて、悲しい気持ちになった。」が心の状態を表し、「わたしの体はこの国の、この街の、この悲しみのただ中に在る。」が体の状態を表しています。
「心」は「すでに三おばさんが死んだ後のことに向かっているが、体は死なないで欲しいという思いにとらわれたままでいる」状態(48字)
という解答を作りました。
問5は(せめて台湾にいるあいだだけは、自分で決めた距離を止まらずに)「走りきりたかった」とありますが、走りきるというのは「わたし」がどうすることですかという問題です。解答欄にある「ること」ということばに続くように、五字以上、十字以内で本文中から書き抜きなさいという条件がついています。「走りきりたかった」というのはランニングに例えた比喩的表現です。文中に「わたしが病院に通いつめた日々、」とありますので、『「病院にかよいつめ」ること』と解答しました。
問6は文中の穴埋め問題です。これも選択肢が設けられていて、間違えようがないと思います。
問7は(わたしは)「彼女の台詞を横取りした」と(やっぱりあたしの育て方は間違ってなかったでしょ、というふうに)「顎をしゃくった」の二か所から読み取れる内容として、最もふさわしいものを選ぶよう求められています。この問題の選択肢も正解以外ははっきり間違っているとわかります。
問8は文中の二か所の空欄に入ることばの組み合わせとしてふさわしいものを選択肢の中から選びます。どれがふさわしいかは一目瞭然です。
●選択肢が素直でわかりやすい
大問二は大江健三郎のエッセイ『「自分の木」の下で』です。大江健三郎の小説は外国文学の翻訳のような文体の作品もあって、慣れないと読みにくいですが、エッセイはそのようなことはありません。
このエッセイは子どもたちへのメッセージで、出題文の中で筆者は文章を書いては、それを書き直す習慣を身につけていたので、小説家としてやってこられたのだと言います。次に、自分の勉強の仕方を紹介します。本を読んで見つけた面白い言葉、正しいと思う言葉をノートに書きつけて覚えてゆくというやり方です。そして、そこに出て来る外国語や人の名前を書きとっておいて、それを他の本で調べてみるというのです。この方法で次から次へと読んでいく本を見つけてつないでゆくという方法を紹介しています。筆者は読んだことのある本から引用して、どのように自分で勉強するか説明を続けます。筆者は英語の文章を読むとき、辞書を引いて、まず意味を頭に入れて自分の日本語で内容がいえるようにしたということです。そして、ほかの場合にもそうやって学んだことを活かして、教えられなくても自分で判断できるようにしたというのです。
この文を読んで、大江健三郎の小説がなぜ翻訳調なのか少しわかった気がしました。
大問二に問題は6問あって、漢字書き取りが1題、解答を記述させる問題が2題で、後は選択肢のある問題です。解答を記述させるといっても、そのうち1題は表現力を求められる問題ではありません
問1は漢字書き取り問題で、当然、書けるようになっているべき水準です。
問2は「それをよいことにして」(わたしはしっかり歯を磨く良い習慣をつけませんでした。)の意味の説明としてふさわしいものを選ぶ問題です。どれを選べばいいかはすぐわかります。
問3は筆者の「勉強」に関する説明として誤っているものを選択肢の中から一つ選ぶ問題です。選択肢が素直なので迷うことはないと思います。
問4は「先生の方が、たいていの質問をすることの、それが理由です」の理由の説明としてふさわしい選択肢を選ぶという問題です。この理由については、先生とは「生徒の心のなかに問題をあらためて作り出すようつとめる人」とありますので、この部分をどう解釈するかといことになります。
アには先生が単純化して説明するためとありますが、先生とは「知らない人間に教えることを知っている誰か、というのではありません。」と書かれているので間違っています。「言葉による置き換えを目的として」というのも意味不明です。ウには「生徒に正解が一つでないことを理解させて、生徒から積極的に質問をできるよう仕向けるため。」とありますが、そのようなことはどこからも読み取れません。エには「生徒がまったく知らない未知の世界に言葉を与えて」とありますが、「生徒にかれがすでに、はっきりとは言葉にできないけれど知っていることを認めさせることなのです。」とありますので違います。オが紛らわしいですが、「本当の意味で知っているとはいえない」とありますが、本当の意味で知るということについて本文には書かれてはいません。
筆者は柳田國男の分類方法に従って、勉強の仕方を先生から教えられたことをそのまま真似する「マナブ」、それを自分で活用することもできるようにする「オボエル」、教えられなくても自分で判断できる「サトル」に分けています。
問5は筆者の実践した「勉強法」のうち「サトル」にあたるものを30字以上、40字以内で書く問題です。出題文の中のどの部分を取り上げればいいかはわかると思います。後はどうまとめるかです。わたしは下のように解答を作りました。
「英語の文章の内容を日本語でいえるようにし、ほかの場合にも判断できるようにした。」(39字)
問6は文中の空欄に入る最もふさわしい語を章番号3の本文中から2字で書き抜くという問題です。章番号3の本文中からと指定してくれているので探しやすいです。「一般的」という語がすぐ浮かびますが、一般的という言葉は本文中にありません。あまりにもありふれた言葉なので、これでいいの?と思ってしまいますが、「普通」という語が3章にあります。それが答えでしょう。
●良心的な問題
今回も問題を見ていないし、見られない方もいらっしゃることを前提にして解説しています。
早稲田中学校の問題はけっして難しくありません。
選択肢に紛らわしいものがほとんどなく、基本的には素直なものが多いです。誤っている選択肢には、間違った要素を複数盛り込んだりしています。微妙に違うかどうかで悩まされることがあまりありません。そういう意味では良心的な問題で受験生の能力を推しはかろうとしているといえそうです。
早稲田中学校・高等学校のホームページによりますと、2023年の1回目の国語の入試問題の合格者平均点は41.9点となっています。2024年はまだ公表されていませんが、もしかしたら、平均点が上がっているかもしれません。また、来年の試験の傾向が変わることもありえます。ただ、同傾向であるとすれば、合格者平均を超えることはそう難しくはないと思われます。
算数、理科、社会の平均点はもっと低いので、国語が苦手な受験生には狙い目かもしれません。
読解力を養うためには語彙力を鍛えることが重要です。本校受験を目指す人ばかりでなく、中学受験を考えている方は語彙力を上げるための訓練を怠らずに志望校合格を目指してください。