2024年2月に行われた早稲田実業学校高等部の国語の入学試験問題について研究しました。
早稲田中学校の2024年入試問題研究のところにも記しましたが、当校からはほとんど全員の生徒が早稲田大学へ進んでいます。ホームページによりますと、2023年度卒業生384人のうち376人が早稲田大学に入学しています。
2024年度の一般入試の募集人員は男女合わせて80人程度で、合格者数は223人。受験者数が749人ですから、実質倍率は3.36倍です。
●確実に得点したい選択問題
大問一は大江健三郎の「数十尾のウグイ」からです。
問1は本文の傍線部「私は決心していました」の内容を具体的に説明したものを選択肢から選びます。何を決心したのかという問です。本文の「私はどうしても、くびれの水面下の岩の裂け目に頭をさしこんで、ウグイの群れを見てやろう、と決心したのです。」という部分と、「私は水に頭を沈めては、岩の裂け目を『偵察』しました。」という部分に着目します。
問2は空欄にあてはまる言葉を選択肢から選びます。逆説の言葉であることはすぐわかると思います。ここではウの「それでいて」がふさわしいでしょう。ちなみに、大江健三郎は作品中でよく「それでいて」という言葉を使います。
問3は本文に「続いてこちらは確かな記憶があります」とありますが、「確かな記憶」に当てはまらないものを選択肢から2つ選びます。この問題は「確かな記憶」のほうをチェックして、そうでないものを選んだ方が簡単です。イの裂け目に引っかかった私を誰かが引っ張り出して救出したのは確かですし、ウの「引っ張り出された瞬間、自分の頭から出た血が、煙のように水に立ちのぼるのが見えた。」という記述も同様に確かな記憶として記述されています。そして、「気を失っていた私が、気づくと、淵からの水が広い瀬になった浅いところに運ばれていました。」というのも確かな記憶として描かれています。その後、「私」が覚えているのは、浅瀬の底の砂利を踏んで立ち去っていく足音だけで、その足音の主が誰だったかはわからないのです。エにあるように母の足音とは限らないのです。
問4は空欄補充です。アとウはあきらかに違います。オも軽率な行動そのものが母親を失望させているのではありません。「私」が溺れそうになりながらも、自分で何とか生き延びられる努力するのではなく、むしろその反対のことを願ったと母親が見抜いたから失望したのだろうと書いてあります。エも本文には「この決心には自分として正しいことがあるのだと、はっきり言葉にして、頭のなかでいってみたり、紙に書きつけてみたりすることができない」とあるのでふさわしくありません。イにあるように失敗を反省して、しょげこんでいるというのが適当です。
問5は「母親に正直にいえなかった理由」として最もふさわしいものを選択肢から選びます。正答以外はあきらかに間違っているので説明の必要はないと思います。
問6は空欄補充です。直後に「自分で何とか生き延びられるよう努力するどころか、その反対のことをねがっていたのです。」とありますので、生き延びようとしなかった選択肢を選びます。
問7は「夢のようなこと」とはどのようなことか選択肢から選びます。イの「一尾のウグイとなって裂け目の向こう側に進み出て、群れに紛れ込んでしまいたい。」と、エの「ウグイに生まれかわり、裂け目に引っかかっている、以前の自分の姿を目にしたい。」のどちらがふさわしいのか迷います。「夢のようなこと」なので判断が難しいですが、裂け目の向こう側に進み出るという記述はないので、エのほうがよりふさわしいでしょう。
問8は出題文の趣旨を適切に説明している選択肢を選びます。アの「私」の奇妙な性格について語ったものではありません。イの武勇伝ではないです。エの達成感は少しも感じられません。オにあるように救ってくれたのが誰かと言うことに執拗にこだわる様子は感じられません。カの家族との会話がよそよそしくなる過程を詳細に語ってもいません。ウの「それでもなお残る謎」が核心となっています。
●記述解答を求められる問題の難度は高い
大問二は國分功一郎の「目的への抵抗 シリーズ哲学講座」からです。自由な行為について書かれた哲学的な内容です。
問1は漢字です。
問2、問3が記述解答を求める問題で、単に抜き書きするだけではなく、説明する必要があるので多少時間を取られるでしょう。
問2は筆者が「目的を超越する」ことをどのようなことだととらえているか説明します。Aに入るのが「動機づけや目的」であることはすぐわかりますが、Bに入る言葉に「手段」という言葉を使わないとならないという指定に惑わされます。手段という言葉は後の方に「手段と目的の連関を逃れる」という表現で出てきます。ただ、Bに入れるべき説明は「課程そのものが楽しみになるということ」という部分ですので、「課程」を「手段」に変えて解答します。
問3は筆者が「遊び」という言葉を導入することで、「自由な行為」についてどのようなことを述べたかったのか説明します。Aに入れる説明もBに入れる説明もともに20字以上、30字以内という分量です。さらに、Aには「真剣」という言葉、Bには「不可欠」という言葉を使うよう条件がついています。Aを「当初の目的を越え出て、それ自体が楽しみであるような真剣な遊び」というように説明し、「目的をはみ出るゆとりをもつことが活動をうまく行うために不可欠」というような説明を施します。
●内容の正確な理解
大問三は古文で「今昔物語集」からです。
問1は「これ」が示す内容についてです。「失せにけり」は「いなくなってしまった」という意味なので、アの死んでしまったというのは違います。牛が牽いていた車が橋から落ちたのは「これ」より以前のことなのでイも間違っています。ウには佐大夫が亡くなると共に牛も姿をくらましたとありますが、同じタイミングだったのかは出題文からは読み取れません。オにあるように牛を買うという話しもどこにも出てきていません。エの牛が理由もわからずどこかに姿を消したというのがふさわしいです。
問2は河内禅師が「怖し」と思った理由を選びます。「海に落ちいりて死にきと」聞いていた人が夢に現れたのでとありますので、アがふさわしいです。
問3は古方位、古時刻の規則についてです。知識がないと答えられません。
問4は「乗り物の堪へずして」とありますが、なぜ佐大夫は乗ることに堪えられないのかその理由を選びます。これも本文に「己が罪の深くて極めて身の重くはべれば」とありますので、イがふさわしいです。
問5は漢字で、古文ではよく出てくる語です。
問6は「暫く借り申して乗りて罷り行く」とありますが、なぜ佐大夫は河内禅師の飼っている牛をしばらく借りることにしたのかその理由を選びます。「この黄斑の御車牛の力強くて乗りはべるに堪えたりば」とありますので、問4の問題と合わせて考えればオがふさわしいです。ただ、4で間違えていると問6の答えもあやしくなります。
選択肢を選ぶ問題によくあることですが、相互に関係性のある問でどちらかで間違った選択肢を選ぶと、つじつまが合わなくなることがあります。慌てずにもう一度、出題文を見直して何と書かれているか冷静に判断しましょう。出題文に書かれていないことが含まれている選択肢を慎重に排除すれば答えはだいぶ絞り込めるはずです。
問7は「な求め騒がせたまひそ」の解釈としてふさわしいものを選びます。「な~そ」は「してはならない」の意味ですから、「(牛を)求めて騒がないでください」と訳せます。エがふさわしいでしょう。
問8は本文の内容にそぐわないものを選びます。「河内禅師、『かかる怪しき夢をこそ見つれ』と人に語りて止みにけり」とありますので、エの「話さなかった」というのは間違いです。
問9は文学史の問題です。「和漢混合文」で書かれた文学作品はどれか選択肢の中から選びます。
●特別な古文対策が必要
記述解答を求められる問題で、本文から抜き書きすればよいものであったり、ほぼ本文の表現を使うことで解答を作れるものは比較的容易です。しかし、本文の内容を理解した上で、自分の言葉で綴らなければならない場合、解答に対するイメージはあったとしても、どう表現すればいいか苦しみます。
今回の早稲田実業学校高等部の大問二の問3がそれにあたりますが、解答に使う言葉が指定されていると、それがヒントになることもあれば、逆に手かせ足かせになることもあります。しかも、それを入学試験という限られた時間の中でやらないとならないので、手こずる人も多いと思います。記述解答の書き方については、常日頃から時間をかけて身につけておく必要があります。
また、当校では毎年、古文の問題が出題されています。しかも、訳はついていないので、中学生には難しいでしょう。本文の内容さえわかれば、問題に答えるのはそれほど難しくないのですが、内容を正しく読み取るのに高校レベルの能力が必要です。
とはいえ、過去問を見ると出典に傾向はありますし、めったに扱われない題材が選ばれることはあまりなさそうです。まずは、過去問を必ずチェックし、その後に高校入試で扱われる古文についてはあたっておくことが大事です。それによって、たとえ見たことがない題材にぶつかったとしても古文に対する感覚が磨かれているので応用が利くようになります。
高校入試でこのレベルの古文の問題が出ることはあまりないので、早稲田実業学校高等部の入試対策として特別な手当が必要になるということです。