2024年2月に行われた東京都国立市にある桐朋高等学校の国語の入学試験問題について研究しました。
●学校情報
桐朋高等学校は桐朋中学校と一貫した教育を行っている私立の男子校で、高校からの入学も受け付けています。同校のホームページを見ますと、「自主的態度を養う」、「他人を敬愛する」、「勤労を愛好する」の三本柱が教育目標として掲げられています。校長先生のメッセージからも「自らの意志で学び続ける姿勢が身につくよう指導する」ということが読み取れます。
大学への進学ですが、国立大学へは現役、既卒、合わせて131人の合格者を出していて、東大には12人が合格しています。早稲田、慶應には合計で145人が受かっています。医学部に国市立合わせて79人の合格者を出していることは特筆に値するでしょう。
2025年度の高校の募集も50名と狭き門で、入試問題のレベルは高いです。ホームページによると、去年と比べて国語と数学の平均点が下がっています。国語の合格者平均点は57.2から54.0点に下がりました。
次に、今年度、どのような問題が出たのか見てみましょう。
●問が要求しているのは何かを見逃さないように
大問一は森絵都の小説「犬の散歩」からです。
問一はことばの意味を問う問題です。①の「繰り言」はあまり馴染みのないことばかもしれません。
問二は傍線部③「絵里子の胸はうずく」とありますが、その理由の説明として選択肢のうちからふさわしいものを選びます。
アには男の言葉が恵利子をからかうものだったとありますが、からかう気持ちは感じられません。イには「恵利子の日常を暴き出し、その怠惰を糾弾するものだったから」とありますが、暴き出すとか怠惰を糾弾するといった強い感情は読み取れません。ウには「恵利子の両親を厳しく責め立てるものだったから」とありますが、厳しく責め立てていないのは明らかです。男の気持ちまで踏み込んで書かれていないエがふさわしいでしょう。
問三は傍線部④「瞼」を「長く閉ざしていた」という表現がありますが、どういうことか書く問題です。読み進んでいって、その意味がわかるのは出題文の終わりのほうです。自分には関係ないこととして、問題やトラブルを抱えた誰かやなにかから目をそむけ続けてきたということです。「問題やトラブルを抱えた」という部分は文中にはないので自分で考えないとなりません。
問四は文中の空欄Iを補うことわざもしくは格言を考えて書くという問題です。空欄の後が「あれこれ説明するより、とにかくその目で見てもらおうと思って」とありますので、それをことわざで表すとすると、「百聞は一見にしかず」でしょう。
問五は傍線部⑤に「あれは一種の通過儀礼だった」とありますが、どういうことか説明するという問題です。問題文には解答の前提が何も示されていませんので、出題文を読んでいない人にもわかるよう説明しなければなりません。「尚美が恵利子を収容センターに連れて行って、犬たちの置かれた現状を見せた上で、恵利子にボランティアが務まるかどうか見定めようとしたということ」を書かなければなりません。この文章で通過儀礼と言っているのは何を指しているのかはわかるでしょうが、どう書き表すかは少し悩むのではないでしょうか。
問六は傍線部⑥「ふれあい広場」とありますが、「 」をつけて表記したのには固有名詞であること以外に意味があると考えられるというのです。どんな意味があるのか説明しなければなりません。
傍線部⑥の前後には、センターに収容された犬や猫のおおよそ8割が殺処分されるという事実や殺処分された犬たちを弔う慰霊碑のことなどが書かれています。「ふれあい」といってもほとんどが殺されてしまうということに感じる違和感を表したものといえるでしょう。そこまで読み取れたでしょうか?要求されるレベルが高いと感じます。
問七は脱落文挿入問題です。
「が、下手に理解の範疇にあったからこそ、その痛ましさ、救いのなさに足下をすくわれ、身動きが取れなくなってしまっていた。」という一文が、元の文章から抜けているので、どこに戻すのがふさわしいか示すことを求められています。該当する箇所が範囲指定されているので捜しやすいです。
挿入する文の冒頭は「が、」から始まっていて、「が、」以下の内容とは逆の内容が書かれているところに続くのだろうと推測できます。理解の範疇を超えていたということです。指定された範囲内でそのような記述を探すと、「しかし実際、そこにあったのは」から始まる段落の最後に当てはまるような内容のことが書かれています。
「自分の理解を超えるほどの惨劇がそこにあったなら、逆に恵利子は一時的に仰々しくうろたえて終わりにできたかもしれない。」(森絵都「犬の散歩」による)
解答には挿入する文章の直後の5字を抜き出して答えることになっているので、「総じて清潔」が答えになります。この問題は比較的、簡単だったのではないでしょうか。
問八は文中にある空欄のⅡを補う言葉を10字以内で答えます。空欄Ⅱは尚美の台詞の中にあります。この台詞には全部を救うことはできないとあり、空欄は「自分はこの犬たちの一割を救っているんだって思いじゃなくて」という文につながっています。全部を救いたいという気持ちを表していると読み取れます。「九割を見捨てている」(9字)というのが答えになります。「見捨てている」という言葉が出てきたでしょうか。
問九は傍線部⑦に「転機」とありますが、「転機」によってじっとはしていられない気持ちになった恵利子の様子が、最もはっきりとうかがえる表現を文中から15字以内で抜き出して書きます。「恵利子の様子」という点に注意が必要です。「様子」というからには、恵利子の気持ちではなく、行動に表れている表現なのでしょう。問題で何を求められているのかを的確に読み取る必要があります。行動に表れているのは限られていて、「デザートを待たずに席を立った」(14字)という箇所です。
問十は傍線部⑧「背後の声」は恵利子にとってどのような意味をもちものか選択肢の中から選びます。恵利子はこの声を聞いて羞恥の念に襲われ、自分はこれまでなにをしたことがあるだろうと自分に問いかけているので答えは簡単です。ウの「自分のありようを省みさせるという意味」です。
問十一は文中で波線がつけられた箇所「では、なんのために?」に対する答えはどのようなものだと考えられるか説明するという問題です。文中にははっきりとは示されていませんので、自分の言葉で書かなければなりません。「誰かやなにかのためになにかできるわけでもないと思ってきたが、自分には関係ないと目をそむけたくなるような事実を受け入れて、自ら進んで関わるような生き方をするため。」という解答を作りました。
問十二は漢字書き取り問題です。
●自分の言葉で書くときは具体的に書く
大問二は韓国のエッセイスト、キム・ホンヒの「私たちのグラウンドを広く使う方法」(小山内園子;訳)からです。
問一は漢字書き取り問題です。
問二は傍線部①に「私たちが自分の体をどう認識しているか」とありますが、私たちの多くは自分の体をどう認識しているのかを書かせる問題です。「~ではなく、~認識している。という形で書くという条件付きです。答えは傍線①を含む段落と次の段落に書かれています。
筆者は自分たちの体について「形態」面と「機能」面に分けて説明しています。機能面については女性の言葉として「どんな運動をどれくらいできるか」と書かれていて、形態面の解答では「見られる体」という言葉が使えそうです。「どんな運動をどれくらいできるかという機能面ではなく、見られるものという形態の側面で認識している。」としました。
問三は傍線部2に「忘れさせられた」とありますが、どうしてそういう言い方をしているのか説明する文の一部が示されています。説明文には空欄が設けられているので、完成させるためにふさわしい言葉を文中から十五字以内で抜き出します。
説明文は、「[ ]によってもたらされる意識の変化であるから。」となっています。答えは傍線部②に続く段落にあります。「『女らしさ』という社会的抑圧」です。
問四は「はじめて自分の体の取扱説明書を見つけた気がした」で終わる傍線部③について次のような説明文がつけられています。
・以前は、むやみに体重を増やしたり筋肉をつけすぎたりした体は[ ]であるかのように筆者には感じられていたが、サッカーにのめり込み、さまざまな運動をするようになって、それは自分の体にふさわしい取り扱い方を知らなかったからだと気づくことが出来た。(2024年度桐朋高等学校 国語入試問題 より)
上の説明文の空欄の部分を補うのにふさわしい言葉を本文中から十五字以内で抜き出します。筋肉がついた体については傍線部③を含む段落の一つ前の段落に比喩的に書かれた言葉があります。「でなければ修理返品交換が必要な不良品のごとく」という記述です。
問五は空欄Aを補うのにふさわしい言葉を考えて、漢字一字で答える問題です。
空欄Aに続く言葉は「[ A ]に介さず、」で漢字一字といえば、「意に介さず」の「意」しか思いつきません。
問六は傍線部④にはサッカーをやっていて一番好きなのは、ボールを取ってドリブルしている自分に仲間が声をかけてくれる瞬間だとあります。そのような瞬間を「一番好きだ」と筆者が思うのはなぜか説明します。理由はすぐわかるはずですが、具体的には書かれていませんので、自分で説明を考えなければなりません。大問二ではもっとも表現力を問われる問題です。
傍線部④に続いて、以下のような文章があります。
「自分の目だけでは画角に限界があっても、そんなふうに叫んでもらえたら360度すべてが見える。言葉で互いの目になる瞬間。互いを『走って、ボールを蹴る体』と認めて目になる言葉が、グラウンドを広く使う方法を教えてくれる。そんな言葉が私の世界を広げ続ける。美しい人より強い人でありたいと思わせてくれる。」(キム・ホンビ「私たちのグラウンドを広く使う方法」小山内園子 訳 による)
このままでは曖昧なところが多いので、自分の言葉で具体的に書きます。例えば、「360度すべてが見える」は飾った言葉なので、「視野が広がる」と変えてもよいでしょう。また、「グラウンドを広く使う方法を教えてくれる」というのはサッカーの話しですが、サッカーの話しを通して女性の活躍の場のことをいっていますので、「女性が活躍できる場を拡げてくれるから」と結んでもよいと思います。
問七は空欄Bを補うのにふさわしい言葉を二字で答える問題です。空欄Bの前後が、「決して[ B ]を取らない」ですから、「引け」しか考えられないです。
問八は傍線部⑤について、筆者が「グッときてしまった」理由としてふさわしいものを選択肢の中から選びます。アには「仲間と群れずに、ただひとりで」とありますが、仲間と群れていないのかは書かれていません。ウには「動詞をあえて使わないことで」とありますが、動詞を使わないことに意味があるとは思えません。イとエは正しそうに思えるのですが、エにあるようにいさぎよさを感じたのかうかがいしれません。傍線部⑤の後に続く文を読むと、イにあるように「さらなる世界の広がりを覚えた」というのが最もふさわしいでしょう。
●記述で解答する問題が多い
総じて、当校の2024年度の国語の問題はかなり難度の高い問題です。合格者平均点が54.0点というのも頷けます。
特徴的なのは記述解答を求める問題が多いということです。小問の数も20題と多いですが、特に自分の言葉で書かせる問題が多く、大問一、二を合わせて6題あります。(10字程度の自分の言葉で書かせる問題を除いてです。)読解力に加えて、表現力も併せて見られるので、私立難関校に見受けられます。指導要領との関係で今後もますますこの傾向は強くなってくると予想されます。
自分の言葉で説明するときには、誰にでもわかるように書く必要があります。つまり出題文を読んでない人にも伝わるように意識して書くことです。受験生は出題者が当然、内容をわかっていると思って書いてしてしまうことがあります。しかし、採点者はそれほど甘くはありません。人に伝えるとはどういうことか理解しているかを見たいと思っているのです。伝わるように書いているかを判断基準にすると思ってください。わかりやすく具体的に書く必要があります。曖昧な表現や比喩的な表現は使わないで、具体的にわかるような言葉に置き換える必要があります。
試験時間内に解答を作成しなければならないので、日頃から自分の言葉で解答を作る訓練をしておいてください。最近の記述問題の対策問題集には丁寧な作りをしているものもあります。取り上げられている問題で解答をする際に必要な要素はいくつあって、なにとなにであるといったことまで細かく解説してある本があります。そういった本に取り組んでなにをどう書けばよいかを学んでください。
または、専門家に自分の作った解答を見てもらいながら、文章表現力を鍛えていくという方法もあります。短期間に確実に身につけることができます。わたしのところでも自分の言葉で記述問題の解答を作成できるよう指導しております。文章で自分の考えを伝える技術を向上させて、入学試験を勝ち抜きましょう!