令和8年2月に行われた東京都立高校の国語の学力検査共通問題について研究しました。東京の都立高校では11校が自校作成問題ですが、その他の学校は共通の学力検査問題です。今回、取り上げたのは都立高校の共通問題です。
都立高校の学力検査問題は東京都教育委員会や日本経済新聞のホームページに載っていますので、この記事と一緒にご覧いただけます。
●小説では子の父に対する思いを読みとる
大問1は漢字の読みで、大問2が漢字の書き取りです。読みでは「遵守」という字が読めない受験生はいるかもしれません。
大問3は小川洋子の小説「長すぎた幕間」からの出題です。小川洋子さんの文章はいろいろな学校でよく入試問題の題材として利用されます。
問1は傍線(1)に「父に急かされ、構図を決める間もなく、とにかく亀から描いていった。」とありますが、この表現から読み取れる「僕」の様子として最も適切なのはどれか選択肢の中から選びます。
アには「早く帰るために『僕』に速やかに絵を完成してほしいという父の意」とありますが、おとうさんが早く帰りたかったとは読み取れません。イは間違っていなさそうに思えるのですが、「亀をモチーフにするべきだという父の意図は理解できない」とまで思っていたかはわかりません。ウには「自分でモチーフを決めずに済むことを喜びながら」とありますが、喜んでいる様子はありません。エにあるように「慌てて亀から描き始めている」というのが最もふさわしいでしょう。
問2は傍線⑵に「『チリッ、チリッ、チリッ。』また水滴が弾けた。」とありますが、この表現について述べたものとして最も適切なものを選択肢の中から選びます。
この問題は簡単で、「チリッ、チリッ、チリッ。」というのはカワセミの鳴き声で水滴が弾ける音にたとえているので、アが正解です。
問3には傍線⑶の「父は既にコバルトブルーの絵の具を持っていた。」とありますが、この表現から読み取れる父の様子として最も適切なものを選択肢から選びます。
この問題も簡単です。アには「『僕』に申し訳なく思い」とありますが、父が「僕」に申し訳なく思っている様子はありません。イには「『僕』に代わって自らが描こうとする様子」とありますが、父は自らが描こうとはしていません。エには「亀の代わりにカワセミを描くべきだ」とありますが、そのような考えは示されていません。
問4は傍線⑷に「それから水面ぎりぎりを飛ぶ小鳥の絵を描いた。」とありますが、このときの「僕」の気持ちに最も近いのはどれか選択肢から選びます。
アには「カワセミに愛着がわき」とありますが、愛着がわいたような様子はありません。ウには「上手に描けなかった池」とありますが、本文には「水の色がバチッと決まった」とありますので、最終的に池にはある程度納得していたのではないかと思われます。エには「構図の邪魔にならないようにちょうど空いているスペースにカワセミを描こうとする気持ち」とありますが、本文には「池からはみ出しそうな、巨大なカワセミ」とありますので構図の邪魔にならないようにと言う配慮があったかどうかは疑わしいです。意のあるように「父を喜ばせようとする気持ち」が強かったのです。
問5は傍線⑸に「父も残念がってなどいなかった。」とありますが、父が「残念がってなどいなかった」わけとして最も適切なものを選択肢から選びます。
アには「絵の描き方を上手に教えられなかった自分に対して腹を立てたから」とありますが、自分に対して腹を立てたのではありません。イには「賞品である自転車を獲得するために参加した」とありますが、自転車がほしかったのは「僕」です。ウには「緻密な構図」とありますが、父は「大胆な構図」と言っていますし、「僕」に対する不満も表されてはいません。
●「対話」について考える
大問4は納富信留の論説文「対話の技法」からの出題です。
問1は傍線⑴に「合意ができなかったということも、一つの立派な対話の結果だったはずです。」とありますが、筆者がこのように述べたのはなぜか、選択肢の中から選びます。
アには「納得できなくても妥協して協定を結ぶことの方が大切」とありますが、本文では「双方がどこかで妥協して協定を結ぶということが目指されているわけではありません。」となっているので真逆です。ウには「たんなる会話やおしゃべりでも十分に行う意味がある」となっていますが、取り上げられている内容はたんなる会話やおしゃべりのこととはまったく異なります。エには「自分の結論が得られればよい」とありますが、イにあるように「お互いができる限り分かり合い自分の考えを再検討していく過程が期待され」ているのです。
問2は傍線⑵に「その場を照らし出す光のようなものが、真理と呼ばれてきたものなのでしょう。」とありますが、筆者がこのように述べたのはなぜか選択肢の中から最も適切なものを選びます。
提示されている各選択肢は本文中で使われている真理という言葉の意味を説明しています。本文では真理とは対話するときに二人が目指す共通のものであり、同じ言葉を使いながら一緒に考える場の成立根拠だと言っていますので、ウが正解です。
問3は本文の中で第十三段の果たしている役割を説明した選択肢のうち最も適切なものを選びます。
第十二段では、対話とは自分が結局は大切なことはわかっていない、自分自身のことすら知らない存在であると自覚させてくれる契機だという筆者の主張が書かれています。そして第十三段ではソクラテスの言説を例に挙げて、持論をさらに展開させています。アの選択肢がまさしくそういった説明になっています。
問4は傍線⑶の「対話の成果は結論や合意や知識をもたらすというより、思い込みを壊して私たちを無にするという、破壊的なものです。」とありますが、「思い込みを壊して私たちを無にする」とはどういうことか、選択肢の中から最も適切なものを選びます。
アには「私たちが『分からない』と思っていたことは自分たちの能力の不足によるのだと発見させ」とありますが、ここでいう「思い込み」とは分からないことを分かっていると思っていることです。イのようなことはまったく書かれていないので除外します。ウは真理を目指す対話について書かれていて、問4の問題で問われていることではありません。エにあるように言葉で説明できないことは「知らない」ということだと気付かせることです。
問5は作文で、「対話による創造」というテーマで具体的な体験や見聞も含めて自分の意見を二百字以内で書きます。
わたしの塾でもこの学力検査を受けた生徒がいますが、中学の委員会活動のことを書いたそうです。そういった受験生は多かったのではないかと思いますが、当然、委員会活動をしていない受験生もいるでしょう。クラブ活動や地域でのつながりなどでの経験や友人から聞いた話などから思ったことを書いたのではないでしょうか。
わたしのように長く生きてきた人間からすると違う立場の人と話すことの大切さを強く感じます。日々の生活の中でもっとも大事にしているのが人との出会いであり、会話です。個別指導の塾をやっているのも対話を通して学習理解を深めたいと考えるからです。
●3つの題材から読み取る
大問5にはABCの3つの文章が用意されていています。Aは東儀俊美と河竹登志夫の雅楽に関する対談で、Bは山崎正和の文章、Cが世阿弥の「風姿花伝」からの引用です。Cには現代語訳がついていますので、それほど難しくありません。異なる種類や分野の文章などを組み合わせて複数の題材から読み取ります。都立高校ではよく出る問題です。
問1はAの対談において河竹登志夫さんの果たしている役割を説明したものとして最も適切なものを選択肢から選びます。
アには「東儀さんの説明が自分の考えと異なっていた」とありますが、2人の考えは異なっていません。ウには「自分の質問に対する十分な答えが得られなかったことから」とありますが、その都度、十分な答えが得られていないという対談の展開ではありません。エには東儀さんの「説明とは異なる自分の意見を述べる」とありますが、河竹さんの意見が東儀さんの意見と異なっているわけではありません。
問2は文法の問題です。Bの文中の4つの「と」のうち他と意味・用法が異なるものを1つ選びます。
イ、ウ、エは接続助詞でアのみ並立を表す格助詞です。
問3はAの対談及びBの文章のそれぞれで述べられている「序・破・急」について説明したものとして最も適切な選択肢を選びます。
アには「Aでは能から生まれて雅楽に取り入れられた構成の考え方のこと」とありますが、能から生まれて雅楽に取り入れられたのではありません。イには「Bでは無限に反復する、リズムをもたない近代的な時間藝術だと述べられている」とありますが、Bには「無限の反復ということが起こらず」とあります。また、リズムをもたないとも書かれていません。ウには「Bでは順序を変えても意味が成立する」とありますが、「順序を変えても、全体が消滅するような有機的な統一を形成している」考えたのはアリストテレスで、「序・破・急」の説明にはあたりません。
問4は傍線⑵に「はたらき」とありますが、Cの「風姿花伝」の現代語訳において「はたらき」に相当する部分はどこか選択肢から選びます。
該当箇所を現代語訳と照らし合わせると「本説」は「典拠」、「音曲」は「謡も所作も」と訳されています。「はたらき」は「情趣」となっています。「趣」とほぼ同じ意味です。
問5は古文でよく出る現代仮名遣いの問題でごく簡単なものです。説明は不要と思います。
●教科書レベルの内容を理解すること
都立高校の共通問題だけあって、教科書の内容を逸脱するような問題は出ていません。普通に学校の授業についていけていれば難なく解けるでしょう。国語ではあまり差がつかないと思いますので、取りこぼしのないように落ち着いて問題に取り組みましょう。大問5には200字の作文も含まれていますので、文章を書く訓練は積んでおくようにしなければなりません。
入学試験においては、中学の指導要領の範囲を超えた、落とすための問題が多いですが、このように中学生が身に着けるべき内容の範囲内で作られた問題を、まずは安定して解ける力をつけることが志望校合格への近道だと改めて感じました。