2024年2月に行われた早稲田実業学校中等部の国語の入学試験問題について研究しました。
●学校情報
早稲田中学校の入試問題研究のところにも記しましたが、早稲田の附属には「附属校」と「系属校」があるようで、「附属校」は直系で、「系属校」は経営母体が違います。
早稲田実業学校中等部・高等部は「系属校」ですが、ほぼ100%の推薦枠を持っています。早稲田大学へ進むならば、早稲田実業か「附属校」の早稲田大学高等学院が有利です。早稲田大学だけでなく、国公立も含めた他大学への進学も考えるならば早稲田中学を選ぶのがよいでしょう。
●選択肢の微妙な違いを読み取ろう
大問一は須賀敦子の小説「インセン」からです。
問1は語句の意味を問う問題です。選択肢が用意されていますので難しくはないです。
問2は傍線1に「まだそんな時代だった」とありますが、どのような「時代」だったと主人公は考えているか選択肢から選びます。アには「留学生自体がまれだった」とありますが、そのようなことはどこにも書いてありません。ウにあるように植民地出身者が市民として認められなかったかどうかまではこの文章からはわかりません。オには植民地政策の正当化を強調していたとありますがそのようなことは書かれていません。イとエは近い内容を表していますが、イにあるように差別意識が東洋人にだけ向けられていたのではなさそうです。エにあるように「人種差別の意識があらわされていた」というのがもっともふさわしいでしょう。
問3は傍線2に「フライパンをはさんで親しくなった」とありますが、具体的にどのようなことかという問(1)とこの部分からわかることを選択肢のうちから選ぶ問(2)の2題で構成されています。
(1)には説明文がついていて、その説明文に空欄が設けてあるので、漢字2字を自分の言葉で補うものです。これは「フライパンをはさんで」ということですし、傍線部の前には「ガス台を共同で使っていた」とあります。同じ段落に書かれている文の内容をふまえれば、 「料理」しかないでしょう。
(2)は傍線部を含む段落に、人種ごとにかたまって行動することが多かった理由は、「肌色の違いというよりは食べ物が違うからといったほうが真実に近い」とありますのでイがふさわしいでしょう。
問4は傍線3に「すこしさびしかった」とありますが、「私」は何が「さびしかった」のか選択肢の中から選びます。その傍線3の前には「インセンは、日本人の私にはいわないことも、彼女にはうちあけるんだと、そう思うと」とありますので、国籍や人種の違いで壁を作られていると感じていると受け取れます。ウがもっともふさわしいでしょう。
問5は傍線4に「インセンのいないときをねらって」とありますが、その理由としてふさわしいものを選択肢から選びます。イにあるように「インインが、インセンの気持ちを考えずにはしゃぎまわってしまうことを」予想したとは読み取れません。ウにあるように「インセンがインインに気を遣って空元気を出す」ことを憂えている様子はありません。エにあるように「インインの幸せな気分にわざわざ水を差すこと」を思いやっているとは思えません。オのインインがインセンを差し置いて幸せになろうとしていることに反発を感じているというのは間違いです。アにあるようにだれにとっても気まずい状況を避けたかったというのがもっともふさわしいです。
問6は傍線5に「わたしがだめになったわけじゃないもの」とありますが、インセンがそのように述べる理由としてもっともふさわしいものを選択肢から選びます。アには「東洋人差別」とありますが、試験にまで人種差別があるとは書かれていません。ウにあるように、もともと手仕事の技術を生かしたいと思っていたとは考えられません。エには「戦争中の辛さに比べれば」とありますが、より前向きな理由があって言っていないと話しの道筋が通りません。オには「中国で不自由なく生活することは出来る」とありますが、インセンは一家で中国からヴェトナムに避難しています。さらに、戦争のせいでそのヴェトナムへも帰れないと言っています。そして本文の最後までパリにいるので、理由として適当ではありません。イがもっともふさわしいでしょう。
問7は傍線6「私たちは、もういちど、インセンにはかなわないと思った」とありますが、「私」はインセンのどのようなところに感心したのか選択肢から2つ選ぶ問題です。アにあるように「逆境を楽しむ」という考え方を持っていたのかは不明です。ウにあるように「多くの友人に恵まれている」のかは書かれていません。また、「私」はインセンに逞しさを感じていますが、エにあるように「反骨心」とまで言えるのかは疑問です。カにあるように人生経験が豊富なのかまでは読み取れません。「苦境に負けない」というアと「自分自身の才覚を活かして」というオがふさわしいです。
問8は本文全体を通しての説明としてふさわしいものを選択肢から選びます。アには「西欧社会が厳しい能力主義の社会でもあることを物語っている」とありますが、試験に受からなかったというだけの話しです。イには「国家間の過去のしがらみから解き放たれたアジアの若い世代」とありますが、インセンは国家間の過去のしがらみから解き放たれていません。ウには「戦争がどれほど個人の生を損なうかという大きな問題が提示されている」ありますが、戦争のことを大きな問題として取り上げた文章ではありません。オには「大戦後の西洋社会で古い価値観が刷新されたことを伝える貴重な回想録」とありますが、古い価値観は刷新されたと伝えていません。エがふさわしいでしょう。
●本文で繰り返し使われている言葉には要注意
大問二は斎藤幸平の論説「ゼロからの『資本論』」からです。小問3題で構成されていますが、すべて記述で答えさせる問題です。
問1は傍線1に「“無駄な”商品を資本は作ってこなかった」とありますが、「“無駄な”商品」とはどのような商品か15字以内で書き表します。解答用紙には「ので、資本を増やすことに貢献しない商品」という文が用意されているので、その文に続くようにしないとなりません。筆者は売れない商品とはどんな商品と考えているかということです。解答には「使用価値」という言葉を用いるという指定があります。
次の段落に「平時には需要が限られていたマスクよりも、もっと『売れる』商品を作らなければなりませんでした」という一文があります。筆者が考える売れない商品とは需要が限られている商品ということがわかります。さらにその次の段落で「使用価値」の説明が出てきて、マスクにも使用価値があると書かれていますので、「使用価値があっても需要が限られる」というのが解答がよいでしょう。
問2は傍線2に「『価値』は人間の五感では捉えることができません」とありますが、それはなぜか30字以内で書きます。解答用紙には「によって決まるものだから」という文が用意されているので、価値を決めるものは何かということを解答すればいいということになります。「労働時間」という言葉を用いるという指定があります。
「価値」については、傍線2の一つ前の段落で「その商品を生産するのにどれくらいの労働時間が必要であったかによって決まる」と定義づけられていますので、この部分を使って解答を作成します。
問3は傍線3に「不思議な事態」とありますがどういうことかという問題です。解答用紙にはA~Dの④箇所の空欄があります。A~Cはそれぞれ15字分のマス目で、Dには15字以上20字以内で本文Ⅱから抜き出します。さらにCには「変動」という言葉を用いるという指定があります。解答用紙には部分的に示されている言葉があって、「生産行動の目的は、」空欄A「から」空欄B「へと進化したが、」空欄C「できないので、」空欄D「状況になったということ。」となっています。
Aは文中に「『使用価値』のためにものを作っていた時代は」とありますのでこの部分があてはまりそうです。Bは「『価値』のためにモノを作ること」でもよさそうですが、この場合の「価値」という言葉の使われ方が限定的なので、「『儲かりそう』なものを作ること」のほうがより明確でしょう。Cには「変動」という言葉を使うことが必須なのですが、本文中にはないので、それから考えていくことにします。すると、価値や使用価値という言葉を中心に話が進められていることから、商品がどれくらい売れそうなのかは「価値が変動するのでわからない」という意味のことをあてはめればいいのだなと気づきます。後は続く言葉が「できないので」となっていますから、「判断」あるいは「予測」といった言葉をあてはめるのがいいでしょう。Dは本文からの抜き出しですので、比較的簡単です。マルクスが「物象化」と呼んでいる部分を答えます。
大問三は問1が漢字の読みと書き取り、問2がことわざ・慣用句の問題です。
●小説は登場人物の心の動きを捉えるのが難しい
小説の出題文には登場人物の心の動きが描かれていますが、はっきりとわかるように書かれているわけではないので、ただしく読み取れるかがポイントになります。選択肢の中からふさわしいものを選ぶ問題では選択肢の中に本文には書かれていない内容が微妙に入り交じっていて、ふさわしいのかふさわしくないのか選り分けるのが難しいです。いくつかある選択肢の内容の違いを細かく見ていく必要があります。日頃から問題を解く際に、何が間違っていて何が合っているかを、論理的に説明できるよう訓練しておきましょう。
また、今回の出題文は登場人物が国際的で、生まれや環境、家族関係などが様々です。これらのことをあらかじめ読むときに人物ごとに整理しておかないと問題を解くときに混乱の素となるでしょう。
さらに、論説では記述して答える形式の問題が出ていますが、内容をふまえた上で、受験生が自分で文章を組み立てて答えなければならない問題もあります。その場合でも本文で繰り返し使われている言葉が指標になることが多いので、繰り返し出てくる言葉には注意して読み進めるようにしましょう。
限られた時間で問題を読み解くために、効率よく出題文に接する術を身につけたいです。