2025年2月に行われた慶應義塾中等部の国語の入学試験問題を入手しましたので解いてみました。

 慶應中等部の入試問題については昨年の5月に2024年度の問題を本ブログで取り上げています。      https://logique.kokugojyuku.com/keioutyutou2024/

 そこにも書きましたが、入学試験は初日に国語、社会、理科、算数の一次試験を行い、一次試験合格者にのみ別日に二次試験の体育実技と面接が保護者同席で実施されます。国語と算数の配点がそれぞれ100点ずつで、理科と社会の配点がそれぞれ50点ずつなので、算数とともに国語の重要度は高いです。

 慶應義塾中等部の卒業生は、ほとんどが慶應義塾の日吉、志木、女子、湘南藤沢、ニューヨーク学院のいずれかの高校へ進んでおり、2024年に他校へ行ったのは2人だけでした。慶應義塾の高校からは特に問題がない限り、慶應義塾大学への推薦がもらえます。

 ホームページには基本理念が載っており、「自立した個人を育む、自由な教育」を謳っています。また、『「独立自尊」に根ざした、本当の意味で楽しい「自由」な学校。自由でのびのびとした明るい校風。』とあります。日吉にある慶應義塾普通部とは試験日が重ならないので、男子は併願することが出来ます。

●明治、大正のころの言葉遣いに対する慣れ

 大問一は山本有三の「路傍の石」からの出題です。

 問一は傍線Aの表現形式を問う問題です。直後に「だれかの句」とありますし、五七五で構成されていることからも俳句であることは誰にでもわかるでしょう。

 問二は母親の仕事を問う問題です。「なんども針を置いて」や「針を持っているあいだも」などの記述から、裁縫の仕事をしていることが読み取れます。

 問三は傍線Cに「いつもは、お店のご用でない限り、けっしてうちへ帰ってはならないと、むすこをいましめている気丈な母おやではあるが、きょうは吾一の帰りばかり待ちこがれていた」とありますが、ここから理解できる母の様子としてふさわしいものを選択肢から選びます。

 1にあるように「教育熱心」とまで言えないでしょう。2にあるように「子離れできず息子に甘えている」はあたりません。4にあるように嘆き悲しんでいたら気丈とは言えません。5はまったく違っているので検討の必要はありません。

 問四は傍線Dの「まだ、行ったばかりなので、ことしはおひまが出ないのかもしれない」の説明としてふさわしいものを選択肢から選びます。

 「おひま」の意味をつかめるかが決め手です。吾一が「やぶ入り」と言っていますし、本文の最後のほうに「半としにただ一日だけ許された、この日」とありますので、里帰りのための休みだということがわかります。選択肢の中でそういった内容が書かれているのは4です。

 問五は文中の空欄Eに入る言葉を選択肢から選びます。お休みがもらえなかったのかもしれないと思って、しょんぼり家に帰ったのですから、5の「すごすご」がふさわしいです。

 問六は傍線Fで「急にいたいたしい気持ちがわいてきた」のはなぜかもっともふさわしい選択肢を選びます。傍線Fの少し前に「吾一のことばがにくらしいほど、ませてきたので」とありますので、吾一のことばが礼儀正しいことを言っているのだとわかります。選択肢の中でことばのことに触れているのは3だけです。

 問七は傍線Gの「うちのたし」とは何か、選択肢から選びます。明治、大正のころの小説や物語を読む人であれば悩まずに答えられると思います。「家計のたすけ」以外の選択肢はありえません。

 問八は傍線Hに「こういうもの」とありますが、母親にとってどのようなものとしてとらえられたのか書きます。指定された字数は25字以上30字以内となっています。

 次の段落に「むすこが働いて、はじめて取ってきたお金であると思うと」とありますし、「吾一の血の決勝のように尊いものに思われた」というところを踏まえて記述します。わたしは「むすこが苦労して、はじめて手に入れた血の結晶のように尊い」(28字)ものという解答を作りました。

 問九は傍線Iの「吾一は、はじめて子どもらしい声を出した」という表現と対照的な表現を本文中から20字で探して、はじめの5字を答えます。

 この問の答えは、問六の問題に取り組む際にすでに参照にしているので、この時点ではパッと思い浮かぶのではないでしょうか。「吾一のことばがにくらしいほど、ませてきたので」という部分です。

 問十は傍線Jで「彼女は、はっとした」のはなぜかという問題です。選択肢から選びます。正答以外の選択肢ははっきりと間違いとわかるので解説の必要はないと思います。このようにわかりやすい選択肢の問題ばかりだといいのすが・・・

 問十一は傍線Kでワッフルについて話し始める吾一と母親との一連の会話から吾一の心情や様子を説明したものとしてふさわしいものを選択肢から選びます。この問題も簡単です。ワッフルもおいしいが、母の作ったぼたもちの方が数倍おいしいと言っているので、2しかありません。

 問十二は傍線Lに「吾一は本気になって、母おやに抗議した」とありますが、このときの吾一の気持ちとしてふさわしいものを選択肢から選びます。この問題もまた易しいです。

 ワッフルより母が作ったぼたもちの方が数倍おいしいと言ったら、母にお世辞だろうと返されたのですから、本気になって抗議したのです。ほんとうの気持ちを伝えたのにわかってもらえなくて腹が立ったのだろうということが読み取れます。5番の選択肢がふさわしいです。他の選択肢はまるで見当外れです。

●ユニークな問題も

 大問二には出典が書かれていません。学校側で作成した文章でしょうか。パレスチナの問題について書かれています。

 問一は文中の空欄A~Fに入る言葉を選択肢から一つずつ選びます。珍しいタイプの問題で、空欄に入る語は接続詞ではなく、代名詞や感嘆詞などがあります。日常会話に近い形式で書かれているので、正解がどれなのか戸惑う人もいるでしょう。会話の流れとしてどれが最も自然かということが判断の決め手となるでしょう。コミュニケーション能力を測りたかったのでしょうか。

 問二は空欄Gにあてはまるふさわしい表現を選択肢から選びます。語彙力が問われます。

 問三は脱落分挿入問題です。入れる文章は「ならイスラエルの方が悪いじゃん」から始まりますので、その前の文章はイスラエルが悪そうに思える文章でないとなりません。(ウ)の前にイスラエルがパレスチナの子どもたちを含むたくさんの民間人を殺していることが書かれています。

 問四は日本の行事に関する知識を問う問題です。傍線Hの「お墓参りもするけど、クリスマスも祝うよ。パパとママの結婚式は確か神前式だったよね」という例え話に絡めて、宗教行事に関わりのないものを選択肢の中から一つ選びます。初詣や七五三は氏神様に祈願しますし、花祭りや盆踊りは仏教に由来します。イースターはキリストの復活祭です。宗教行事に関係ないのは花見です。

 問五は空欄Iにあてはまる表現を選択肢から選びます。「長生きしてよね」でもよさそうですが、父親の「もう何も心残りはないよ」という言葉に続くものとしては、「少し年とったんじゃないの」のほうがふさわしいでしょう。

 問六は全文を通して筆者の言いたかったことを選択肢から選びます。5番の「世界の紛争を解決するためには武力ではなく話し合いが必要であり、日本人の持つ多くのものをうまく取り入れる能力が役立つかもしれない。」がふさわしいです。他の選択肢は明らかに違っています。

 大問三は1から9の文に空けられた空欄に漢字1字を補って、その補った漢字を使って四字熟語を2つ作る問題です。パズルのようで面白いです。

 大問四は慣用句の問題で、使い方が正しいものと間違っているものを判断します。「寸暇を惜しまず」は間違えやすいですが、正しくは「寸暇を惜しんで」です。「とりつく暇もない」とは言いません。「とりつく島もない」が正しい表現です。「役不足」は与えられた役割が自分の実力よりも軽い場合に使います。精一杯頑張るといっているのですから、この場合は「力不足」でしょう。

 大問五は漢字書き取り問題です。漢字自体は難しいものはなくて、どちらかというと言葉を知っているかということの方が重要でしょう。

 

 ●語彙力が問われる問題

 前回取り上げた雙葉中学校の問題と同様に慶應義塾中等部の入試問題も、語彙力を問われる問題が多いです。語彙力を高めるための勉強は必須です。ただ、極端に難しいものは出ていないので、通常の勉強の範囲で十分と思われます。

 読解問題は平易なものが多く、難関私立中学受験向けに高度な問題を解くといった特別な勉強は必要ないと思われます。特に大問一には小問が12題ありますが、ほとんどが選択肢の用意されている問題で、しかもふさわしい選択肢以外は明らかに間違いとわかる問題ばかりです。中学受験で有名な学習塾ではめったに出題されないような難問に挑ませて、子どもたちの自信を失わせていますが、そんな必要はありません。入試問題では100点を取る必要はなく、7割も取れれば十分です。めったに出題されないような難問を解くために頭を悩ませるより、受験生が知っておきたい知識を身につけておいて、確実に得点できる問題を増やしていくことが大切です。あまりそういった塾に煽られすぎず、子どもたちを無駄に消耗させないことをお勧めします。

 ご家庭の中でのコミュニケーションや友だちとの会話などさまざまな機会での言葉のやり取りを大切にするような日常生活を送っていきながら、自らの頭で考え、問題を解決する能力を身につけていっていただければ、合格基準点に達することが出来るような問題が出題されています。

 そういう意味では慶應義塾中等部の国語の入試問題は王道をいっていると言えるのではないでしょうか。お子さんの将来を考えればこそ何が大切なのかを見失わないようにしたいものです。