2024年2月に行われた慶應義塾中等部の国語の入学試験問題について研究しました。
本校の入学試験は初日に国語、社会、理科、算数の一次試験を行い、一次試験合格者にのみ別日に二次試験の体育実技と面接が課されます。
慶應義塾中等部の卒業生は、ほとんどが慶應義塾の日吉、志木、女子、湘南藤沢、ニューヨーク学院のいずれかの高校へ進んでおり、2023年に他校へ行ったのは5人だけでした。慶應義塾の高校からは特に問題がない限り、慶應義塾大学への推薦がもらえます。
中等部のホームページには、基本理念として「自立した個人を育む、自由な教育」とあります。また、中等部長のご挨拶として『「独立自尊」に根ざした、本当の意味で楽しい「自由」な学校。自由でのびのびとした明るい校風。』と書かれています。制服がない自由な学校といったイメージです。日吉にある慶應義塾普通部とは試験日が重ならないので、男子は併願が可能です。
●出題の意図をくみ取る
大問一は小説からの出題ですが、出典が書かれていません
問一、問二は語句の意味を問う問題です。
問三は適語補充です。どれも常識の範囲です。
問四は本文中の「吐き捨てるようにひとりごちて」という表現について、そうなる理由を選択肢から選ぶ問題です。選択肢の2には「男子の歌声がうまくそろわないのは自分のせいなのに」とありますが、本文中には「それはじぶんのせいじゃない」とありますので明らかな誤りです。4には「ボカロは参加できない決まりに腹を立てたから」とありますが、ボカロで参加できないことに本気で腹を立てたとは考えにくいです。5には裕子のことが憎らしいとありますが、その後の健太の行動を見るとむしろ何とかしてやりたいという気持ちを持っていたと考える方が自然です。とすると、良い対策が浮かばない自分に腹を立てたという3がもっともふさわしく、1の早くサッカー部の練習に参加したかったというのはそぐわないです。
問五は出題の意図がつかめれば答えられそうです。問題は文中の「この雰囲気が気持ちいい」の「気持ちいい」と同じような健太の心情が描かれている一文を探すことです。「この雰囲気」とはどんな雰囲気かという問題ではありません。何を求められているのかを正確に把握しましょう。
問六は健太の思いついた対策についてです。「やる気にさせる」ということと、「DVDを見せる」ということが書かれていればよいでしょう。
問七は文中に「どうでもよく感じる」とありますが、こうした気持ちになる理由としてもっともふさわしいものを選びます。該当の箇所の前に「すごく充実していて楽しい」とありますので、他のことなどどうでも良いと感じるくらい充実しているということです。それに比べると、1にあるように「裕子を見返してやりたい」とか、2のチャットGPTとか、5の社会科の成績などはいかにも取るに足らないことといえるでしょう。やはり「成果が得られたと言う充実感がより大きい」という4がふさわしいです。
●出題文をよく読んで何が求められているかを把握する
大問二は論説文で、やはりこの文章にも出典はありません。
問一は対義語で、問二は適語補充です。
問三は文中の「今まで入れなかったものがすっと入ってくるようになる」とはどういうことかを選択肢から選びます。本文中に「大震災によって、外国のものが入りやすくなってきた」とありますので、1の「歴史の空白地帯となったところに外国からの文化を取り込んだこと。」がふさわしいです。4にあるように「新しい街づくりを推進した」とは書かれていませんし、5にあるように「強制的に近代化を遂げてきた」わけでもありません。
問四は文中に「新しい風が吹いたのは、なにも空間や人間の生活に対するものだけではない」とありますが、本文の内容をふまえた上で「空間」「人間の生活」に含めないものを選択肢から選ぶという問題です。つまりは、空間や人間生活に含まれないもので、新しい風が吹いたのは何かということです。何が求められているかということがわかれば、正答に辿り着くのはあまり難しくないでしょう。
問五は文中の「『満員』という群衆がわたしたちの周りに日常的に登場するのはこの頃が初めて」とありますが、どういうことか選択肢から選びます。この部分が蒸気機関車を例に挙げた移動手段のことをいっているのは明らかです。
問六は擬人法を理解しているかどうかを問う問題です。
問七は文中にある「焼け野原」という言葉と同じ意味で使われている表現を選択肢から選びます。この文章では「焼け野原」という言葉は東京という場所がゼロから出発することとなった状態のことを表していて、1の「倒壊や津波」といった出来事ではないことに注意が必要です。
問八には4つの文が載っていて、それぞれについて本文の内容に合っている、合っていないかを判断する問題です。アには「新型コロナウイルスの影響」とありますが、本文の主旨はそのような内容ではありません。エには筆者が「新しい百年は震災が起こっても日本独自の文化や伝統を絶やさないようにしてほしいと願っている。」とありますが、筆者は都市が変わっていくことに対していいとも悪いとも言っていません。
●大問三以降のほとんどが知識問題
大問三は山本健吉の随筆です。
川端康成がノーベル賞を受賞したときの講演の中で挿入した詩について触れています。白楽天(白居易)の「殷協律二寄ス」という詩からの引用ということで、出題文にも載っています。漢文なので少し驚きますが、日本語の訳もついているので現代文と変わりありません。
この大問三では、ノーベル賞作家を選ばせる問題や文学作品などの冒頭を挙げて作品名や作者を問う問題が出題されています。「枕草子」の冒頭を選択肢から選ばせる問題もあります。2023年には選択肢の中から「古今和歌集」に入っている和歌を選ばせる問題や「比翼連理」という中国の故事の出典を問う問題が出ました。この大問三は、2023年には6問だったのが、今年は7問に増えていて、年々、充実しています。単純な文学史の問題に留まらず、広く古文、漢文の素養も問われるので、注意が必要です。
ちなみに、「比翼連理」の出典は白居易の「長恨歌」なので、白居易は2年続けての出題となっています。
続く大問四は文法、大問五は漢字です。他の学校と比べて知識問題が多いです。
●問題数が多い
本校の問題には、大問一の問五や大問二の問四のように、一読しただけでは解答として何を求められているのかわかりにくい問題があります。当然のことながら解答が出題の意図からずれていたら話になりません。まずは出題の意図をしっかり把握するよう訓練することです。
また、本校は問題数が多いのも特徴です。2024年で25問あります。速読はもちろんのこと、解答にもあまり時間をかけていられません。数多くの問題にあたり、試験時間内に解答できるスピード感を身につけましょう。
もう一つの特徴は出題の幅が広いことです。文学史は必ずと言っていいほど出題対象になっていますし、初歩的な古文、漢文にも接しておくことが必要です。和歌、俳句などに関する知識も問われます。中学受験に留まらない広く文学に関する一般常識が出題されていて、慶應義塾の求めている生徒像を感じさせます。
通り一遍の受験勉強に偏らない、広い視野を持った知的好奇心の旺盛な若者を期待する意識の表れなのではないでしょうか。ぜひともその期待に応えられる学生に育ってほしいものです。