2024年2月に行われた西日暮里にある男子校、開成中学校の国語の入学試験問題について研究しました。

●学校情報

ご存じの通り、全国で最も多く東大合格者を出している学校です。2024年も149人が東大に合格しています。中高一貫校ですが、高校からの入学も受け付けています。同校のホームページを見ますと、学園長先生のご挨拶として、開校以来、「進取の気性と自由の精神」、「ペンは剣よりも強し」、「質実剛健」、「自主自律」といった精神を継承していることが書かれています。トップレベルの受験校でありながら、窮屈さを感じさせない自由闊達な校風という印象です。

2025年度の中学校の募集人数は300人です。2024年の国語の合格者平均点は23年度の55.6点から60.2点に上がっています。

次に、2024年度の入試問題を見てみたいと思います。

●設問文の指示を注意深く読んで出題者の意図を把握する

 大問一は佐々木雅人の論説「時速250㎞のシャトルが見える」からです。

 この文章では「アフォーダンス」という耳慣れない言葉が出てきます。中学入試の問題には小学生が知らないような言葉が出てくることはよくありますので、その言葉が扱われている文脈から判断してこのような意味だろうと推察して、読み進めることになります。「アフォーダンス」の意味は文中に説明がありますので、この説明の意味を理解して問題に取り組みます。問三には「アフォーダンス」という言葉を使って説明するという条件のついた問題さえあります。

問一は傍線部1に「与える」とありますが、本文のリハビリの話しで具体的に「何が何に何を与える」のかという問題です。この問題には「( ① )にある物質が( ② )に( ③ )という行動を与える。」という文が提示されています。この①、②、③に入る言葉を答えるのです①は五字で、②は七字で本文から抜き出します。③には文字数の指定はなく、抜き出すとも書いてありません。

この問題の解答作成のポイントは、「ここでのリハビリの話において、具体的に『何が何に何を与える』」のか問うている点です。リハビリの話は冒頭から三段落目までで具体的に書かれていますから、この部分を利用して解答を作成すればよいわけです。

問二は傍線部2に「アフォーダンスがあるなと私が思えるようになった」とありますが、筆者がそう思えるようになった理由を六十字以内で説明します。これは傍線部2を含む文とそれに続く段落に書かれている内容の要点をまとめることで解答できます。

・失明した男性の歩行訓練で思ったと言うこと

・空気中に満ちている多様な振動やその微細な変化を、失明した人たちは感じ取っていること。 ← 筆者はそれを実感した。

上記の内容が書けていればいいでしょう。

問三は傍線部3に「失明者付いて歩くという経験がスポーツへの興味とつながっています」とありますが、筆者にとって「失明者に付いて歩くという経験」と「スポーツ」はどういう点で共通しているか、「アフォーダンス」という言葉を使って書きます。

この共通点については、傍線部3の後から最後までに書かれています。傍線部3のすぐ後にスポーツは「特殊な環境を過酷な形で構築することで成立している」とあります。また、最後の段落に、アスリートは困難さと不自由さの中のわずかな自由を見いだし、活かしきっているとも書かれています。「アフォーダンス」とは周囲の環境に備わっている行動を可能にしているさまざまな性質のことをいうと書いてありますので、困難さと不自由の中に見いだせるものこそがアフォーダンスといえます。

●気持ちを問う問題には原因や理由も併せて記述する

大問二は千早茜の小説「鵺の森」からの出題です。大問二は5つの小問がありますが、そのうち4つは受験生が自分の言葉で説明する問題で、そのまま使えそうな言葉や表現が少ないので読み取った内容をどう伝えるかにかかっています。字数の制限もありません。

問一は傍線部1に「ただ、僕には一つ安心があった」とありますが、ここでいう「安心」とはどのようなことか説明します。

これは本文に「一度、異物だとみなされたら、もう終わりだった」、「何より、彼からは『可哀そうな』オーラが滲みでていて、子どもからすればそれは『苛めて下さい』と言っているようにしか見えなかった」とあることからいじめのことを言っていることがわかります。また、「確実な標的が他に一つあれば、こちらに矢が飛んでくることはない。僕は教室の片隅でぼんやりと窓の外を眺めている翔也を見ては、人知れずほっと息をついていた」とありますので、主人公は自分がいじめの対象にならなければいいと考えていることは読み取れるでしょう。頭を悩ますのはそれをどう書き表すかということです。

答え方はいろいろありますので、採点者がどのような基準で採点したのか気になります。外見が目立っていた上に気が小さい翔也の存在のお陰で、いじめの矛先が自分には向かないだろうと思って安心したというような主旨で解答を作ればよいと思います。

問二は傍線部2に「どうして人って水に入るとあんなに声が高くなるのだろう」とありますが、ここでの主人公の気持ちを説明します。

この問題は少し難しいです。なぜなら、主人公がプールを休んでいる理由は胸に負っている火傷の痕を他人に見られたくなくて、知り合いの医者に診断書を書いてもらっているからです。言ってみれば、嘘をついてずる休みをしているのですから、後ろめたい気持ちがあって当然です。

しかし、後ろめたさを感じている様子は読み取れません。むしろ、傍線2を含む段落の直前の段落と2つ先の段落で描かれている翔也と主人公の心情をくみ取る方が自然な流れでしょう。すなわち、『この町で生まれ育った奴はぼくをよそ者として見るんだ』という翔也の言葉に対して、主人公は「その気持ちはよくわかった」と心の中で共感を示しています。さらには、「どんなに自分を殺しても完全に溶け込むことは出来ない」と感じています。水の中ではしゃぐクラスメートに溶け込めずによそ者の気持ちを味わっているのでしょう。

問三は傍線部3に「大きく羽を伸ばして、今にも飛び立ちそうに生き生きとしている」とありますが、このように感じた主人公の気持ちを説明します。

翔也が作った白い鳥の模型への周りの評価が高いことに対して、主人公がどう思っているかは本文中にほとんど書かれていません。「僕は怖くなった」と「このままでは、苛めが僕に回ってきてしまうと思った」の2つだけです。翔也が作った模型があまりにもすばらしく、クラスメートに尊敬されるようになったので、苛められるのは自分になってしまうことを恐れる気持ちを抱いたということでしょう。

問四は傍線部4に「そして、森で鵺を見た」とありますが、鵺を見る前と見た後で翔也の気持ちはどのように変化したか説明します。

この問題は難問です。

答えは本文の終わりのほうにある翔也の台詞に含まれています。

「いつか、自分と同じ人たちのところへ行けると夢見た。けど、鵺を見た時思った。もう、一人でいいと。わかったんだ。どこに行っても同じなんだ。」(千早茜著「鵺の森」による)

「わずかな違いを見つけだされるのを恐れて生きるのなら、おれは一人でいい。恐れられる方がずっといい。鵺はずっと一人で、畏れられて理解なんてされないんだ。けど、忌み嫌われてもあんなに堂々としていられるんなら、それでいい。」(千早茜著「鵺の森」による)

鵺を見る前の気持ちは「自分と同じ人たちのところへ行けると夢見た」という部分から推察するしかありません。いつか仲間が出来ると思っていたのでしょう。「死にたいと思っていた」と書いてしまいそうですが、それでは鵺を見た後の気持ちとの対比をうまく浮かび上がらせることが出来ません。

鵺をみた後は何度も繰り返されるように、一人でいいと思ったわけですし、理解されなくても孤立を恐れず、堂々と生きていこうという気持ちになったのです。

また、設問では気持ちの変化を説明することになっていますが、なぜ変化したのかを解答に含めましょう。完全に異端で圧倒的に美しい鵺に惹きつけられたからです。

 問五は漢字書き取り問題です。

 

●小説で登場人物の気持ちを読み取る問題が出ている

 開成中学校の国語の入試問題の特徴は記述解答を求める問題がほとんどだということです。しかも本文にある文から抜き出して解答に利用できるようなものは少なくて、自分で考えて解答を作成しなければなりません。出題文の内容がよくわかっていないと答えられませんし、解答のイメージが出来てもそれをどのように書き表すかで悩みます。読解力と表現力が問われるのです。

 しかも、大問二の小説のようにかなりの長文が出題されます。2024年の大問二の出題文は6,200字以上あります。この出題文の内容をよく理解した上で、登場人物の気持ちなどを説明する文を考えなければなりません。時間的にもかなり厳しいでしょう。それでも2024年度の合格者の国語の平均点は60.2点となっています。

 2024年の小説の出題文は登場人物の気持ちがよく表れた文章です。こういった文章を探し出すのには出題するほうもかなり苦労されたのではないでしょうか。開成中学校は毎年、こうした小説を題材にした問題が出ています。小説で登場人物の気持ちなどをまとめる練習をしておきましょう。

読解力、表現力を鍛えることは国語のみならず、他の教科にも大きく関わってきます。英語や社会などはそのまま直結しますし、数学の文章題や証明問題などにも影響します。国語力を上げて志望校合格を目指しましょう。