2024年2月に行われた都立西高等学校の国語の入学試験問題について研究しました。
ご存じのように都立高校の入試は共通問題で、どこの学校を受験しても同じ問題が使われますが、独自問題を作成している学校があります。日比谷・西・国立・戸山・青山・立川・八王子東・新宿・墨田川・国分寺は英数国が独自問題で、国際高校は英語のみ独自問題です。
今回取り上げる西高校は英数国が独自問題で、理科、社会は共通問題を使っています。
なお、西高はホームページで過去問を公開しています。
●学校情報
創立88年という長い歴史を持ち、高い進学実績と自由な校風で知られている名門校です。ホームページを見ると「文武二道」、「自主自律」が教育理念として掲げられています。国際社会で活躍する人材の育成を目指しているようです。
東大合格者数は都立では日比谷の次に多く、令和6年度は東大に17人の合格者を出しています。東京都教育委員会から進学指導重点校、Global Education Network 20、理数研究校の指定を受けています。
●調査書点と学力試験
調査書点は下記のように計算します。
英語、数学、国語、理科、社会 → そのまま(1倍) オール5で25
音楽、美術、技術・家庭、体育 → 2倍 オール5で40
全科目の調査書点を合計すると最高で65です。合格者の選抜にあたっては、これを300点で換算します。
300×{英語+数学+国語+理科+社会+(音楽+美術+技術・家庭+体育)×2}/65
上記のような計算式になります。
これに対して学力試験の得点は700点換算ですので、5教科の最高得点500点で割った比率1.4を学力試験の合計点に掛けます。
さらに、ESAT-Jの結果(最高20点)を加えます。
●小説では文章中の表現を正しく読み取る
大問1は漢字の読みで、大問2が書き取りです。ともに難度の高いものが含まれているので漢字の勉強も怠らないようしましょう。
大問3は上野歩の小説「お菓子の船」からの出題です。
問1は傍線(1)に「曽我がワコに目を向ける。」とありますが、ここから読み取れる工場長の曽我の心情がどのようなものか選択肢の中から選びます。アにあるようにコンテストで鶴ヶ島に勝てるかどうかを考えているようには書かれていません。ウにあるように驚いている様子はありません。エには大きな進歩は感じられないとありますが、進歩が見られたからこそ鶴ヶ島は「やってみろ」と言ったのでしょう。イのワコが感性についての理解を深めたのを感じたからというのが正しいです。
問2は傍線(2)に「ワコは感性を発露させた。」とありますが、どういうことか選択肢の中から選びます。アには「職人として和菓子を作り続ける日々を通して感じた喜びや充実感を活用する」とありますが、和菓子を作る日々にワコが喜びや充実感を感じたとは書いてありません。イにあるように主催者の意図を和菓子にこめたのではありません。ウにあるように感性に正しいとか間違っているとかがあるようには描かれていません。
問3は傍線(3)に「自分の姿が映った時よりも晴れがましさを感じる。」とありますが、なぜか60時以内で説明します。コンテストに出て自分の力を試したかったワコとしては、自分が作ったお菓子を評価されることが何よりも誇らしかったからです。
問4は傍線(4)に「それだけ言うと、鶴ヶ島は立ち去った。」とありますが、「鶴ヶ島」の様子から読み取れることは何か選択肢から選びます。この問題の選択肢は、正答以外、明らかに間違いとわかりますので説明の必要はないと思います。
問5は傍線(5)に「お菓子に表現するやり方が違っている。」とありますが、どういうことか選択肢の中から選びます。この問題の選択肢はどれもコンテスト終了後の曽我の指摘とコンテスト前に言っていたことの比較対象で成り立っています。イでは「情景を直接形作ることなく」の部分、ウでは「テーマから連想できる自然そのものを、どれだけ共感しやすい形で表現できるか」という部分、エでは「自然の変化を感じる日常の多様な瞬間を、どれだけ具体的に表現できるか」という部分がすべてコンテスト前には言っていないことです。
問6は大問3の出題文全体を通して表現や内容について述べたものとして最も適切なものを選択肢の中から選びます。本文はワコの内面を中心に描いていますが、アには「情景によって表現し」とありますので間違っています。イにあるようにコンテストの経過を「時系列」に説明しているわけではありません。エにあるようにワコ自身の実力を読み取れるような配慮があるわけではありません。ウにあるように「読者がワコの感覚と同一化して物語の世界を味わえるようになっている」と言うべきでしょう。
●よく練って作られた選択肢
大問4は松村圭一郎の論説「旋回する人類学」からです。
問1は傍線(1)に「この『解剖学的展開』とも言われる潮流は、人類学のあり方を大きく揺るがした。」とありますが、「解剖学的展開」とはどういうことか選択肢の中から選びます。ギアツが主張した「解剖学的展開」は、イにあるように「現地人の行為をフィールドワークにより実証的に解釈する」ことではないです。ア、ウ、エは途中まで同じような内容のことが書かれていています。しかし、アもウもどちらも「解剖学的展開」のことではありません。エにあるように意味を帯びた記号である現地人の行為を筋道立てて解釈するというのが適切です。
問2は傍線(2)に「インドネシアのジャワとバリ」とありますが、両者の違いの説明として適切なものを選択肢から選びます。この問題は簡単です。適切ではないものはどれもジャワの人々に関する説明が間違っています。アにあるようにジャワの人々は内部世界と外部世界が対立し合っている自己の概念を持っているとは書かれていません。イにあるように「瞑想的な内面の部分を重視している」わけでもありません。エにあるように「内面と外面のそれぞれに二面性のある自分を概念化している」というのも違っています。
問3は傍線(3)に「従来の人類学が根底から批判され、それを刷新しようとする実験的試みが生まれた。」とありますが、「実験的試み」とはどういうことか適切に説明しているものを選択肢から選びます。イにあるように「科学的な他者理解」は草創期の考え方です。ウには「異文化を中立的な立場から記述するために」とありますが、逆に人類学の他者理解が「中立的な知識であると受けとめることは不可能になった」と書かれています。エの説明ですと、原住民の側からの解釈のみを明らかにしようとしているように読めます。
問4は傍線(4)に人類学者が異文化を研究することの正当性すらも否定された。」とありますが、それはなぜか適切に説明している選択肢を選びます。アにあるように人類学者が「自らも研究対象になりうる」というようなことは書かれていません。イにあるように「現地の人々が自由に生きる権利を奪われた」というようなことも書かれていません。エにあるように「現地の人々が植民地としての歴史を強制的に踏襲させられる」というようなことも書かれていません。
問5は傍線(5)に「構築された理解」とありますがどのようなことか適切な説明をしている選択肢を選びます。この問題で気をつけなければならないのは1986年に出版された本の中で人類学者がギアツの論文を批判して書いたことだということです。つまり、ギアツの理解のことを言っているのです。アにあるような「単純な解釈」ではありませんし、ウにあるように「人類学者の期待」を押しつけているわけでもありません。エには「感情移入」とありますが、ギアツはかならずしも感情移入する必要はないとしています。ギアツはイにある「表現様式や象徴体系」を読み取ることが重要だとしていると書かれているのですが、それがこの問題と結びついたでしょうか。
問6は本文の論理展開を説明したものとして適切な選択肢を選びます。アは合っていそうなのですが、ギアツの解釈人類学が批判された経緯が抜けていることが気になります。イは最後がギアツ中心となっているのが間違っています。ウには「文化の理解には多声性が必要であると強調している」とありますが、「文化の翻訳」のために言語の力も必要です。エには間違ったところはないといえます。簡単には間違いが見つけられない、よく考えられた選択肢です。
問7は波線部に「人類学の他者理解はどのように変化したのだろうか?」とあることを踏まえて、現代においいて「他者理解」を実現するにはどのようなことが必要か、自分の考えを200字以内で書きます。
「他者理解」ということを考えるときに思うのが、イスラム教過激派のことです。テロは恐ろしいですし、許してはならない凶悪な犯罪です。しかし、テロに対して報復を行っていたら、延々と争いは続いていって、紛争をなくすことはできません。どんなに困難であっても対話を続けて、少しでも理解できるようにならないのでしょうか。そのためにはまずお互いを知ることが大切だと思います。未知のものや違いが歴然としているものに対して、人は拒否反応をしてしまいがちですが、直接会って話すことができれば、どこかに相通ずるものを感じられるのではないでしょうか。時間をかけて、文化の違いを認められるようになれたら、歩み寄れることがあるのかもしれない。テロをなくすことはできないのでしょうか。そんなかすかな希望を抱いています。
●漢詩の問題には現代語訳がついている
大問5は揖斐高の説明文「江戸漢詩の情景」からの出題です。
問1は傍線(1)に「凧は江戸時代には地域によってさまざまな名称でよばれていた」とありますが、「いか」や「たこ」とよばれていた理由として適切なものを選択肢から選びます。この問題は簡単で、本文中に「見立て好きな江戸人は空を海に見立て、そこに烏賊や章魚が泳いでいると見たのであろうか。」とありますので、答えはウです。
問2は傍線(2)に「なんとも微笑ましい情景である」とありますが、微笑ましいと言える理由の説明として適切な選択肢を選びます。この問題も簡単です。傍線(2)はその前に書かれた漢詩の現代語訳の内容を指しています。すなわち「うたた寝をし始めた私が、やがて鼾をかくようになったのを幸いに、側使いの小坊主は走って裏庭に行き、凧揚げに興じているというのである。」の部分です。したがって、答えはイです。
問3は傍線(3)に「同じような」とありますが、何がどう同じなのか説明する選択肢の中から適切なものを選びます。傍線(3)は柏木如亭の漢詩と正岡子規の俳句が同じような情景を詠んでいることを言っています。イには「庭先に出て冷たい風を受けながら」とありますが、どちらにもそのようなことは出てきません。ウには「体の故障と老いにより自由がきかない如亭」とありますが、如亭に体の故障があったとは書いてありませんし、この時、老いていたのかもわかりません。エにあるように「新年を迎えた」頃のことなのかわかりませんし、両方とも「少年の姿の先に遠い故郷を見ている」ことをうかがわせる詩や句ではありません。
問4は傍線(4)に頬杖をついたとありますが、本文中の六如の漢詩の中ではどう表現しているか、漢詩の中から抜き出した場合、適切なものを選択肢から選びます。この問題は漢詩の白文と書き下し文と現代語訳を見比べるだけです。「顎を搘へて」の部分に該当する「搘顎」がそれにあたります。したがって、解答はエです。
問5は傍線(5)に「空に揚がっている凧」とありますが、ここでは何を意味しているのか、適切に説明している選択肢を選びます。アには「現在の自分との差異に改めて気づかされ」とありますが、そのようなことは書いてありません。ウには「懸命に生きようとする己を凧に重ね勇気を感じている」とありますが、これも書かれていません。エの「今後の生活に不安を抱いている」というのは、「人間存在の頼りなさ」とは異なります。「イの内容が本文中の記述をもっとも近い形で言い換えているでしょう。
●難度の高い問題
さすがに有名受験校独自の試験問題だけあって難度が高いです。特に大問4の論説文は内容が濃く、出題文の範囲内で内容を正確につかみ取るのが難しいです。大問3の小説にしても文章中の表現についてかなり突っ込んだ問題が出ており、正確に理解できているかが問われます。全体を通して選択肢が用意されている問題が多いのですが、選択肢がよく練られていて、簡単には正答にはたどり着けません。明らかに間違いとわかるものや本文の表現をそのまま選択肢に流用しているものが少ないのです。消去法で余分なことが書かれている選択肢を除外して、始めて差し障りのない答えにたどり着けるといった具合です。問題を解くにはかなりの読解力が求められます。
また、200字で自分の考えを書くというほとんど作文のような問題も出ているので、文章を書く練習もしておきましょう。
漢詩を扱っている文章も出題されていますが、現代語訳がついているので、それほど恐れる必要はありません。とはいえ漢文には慣れておいたほうがよさそうです。
50分で答案を書くにはたいへんな量です。時間内に解くためにはスピーディに問題が解けるようにしておくことが必要です。