2024年2月に行われた渋谷教育学園渋谷中学校の国語の入試問題を入手しましたので見てみたいと思います。

ホームページによりますと2023年には同校の高校を卒業した生徒が東大に40名受かっていて、海外の大学にも30名以上の生徒を送り出しています。東京の男女共学校ではトップクラスの実績です。

完全中高一貫校で高校では生徒募集をしていません。渋谷教育学園渋谷へ行きたい場合は中学受験するしかありません。一般入試を3回行っていますので、併願の候補となることも多いでしょう。

2024年の入試問題はまだ公開されていません。声の教育社から2025年度受験対策の過去問題集が5月中旬の発売予定です。

●多くの示唆を含む題材

大問一は木皿泉の「かお」からの出題です。筆者の「カゲロボ」という著書の中の1話です。

問題をご覧になれない方のために、あらすじを簡単に説明します。

主人公のミカの両親は、ミカが生まれてすぐ離婚していますが、その際、ミカそっくりのロボットをつくって、それぞれを娘として引き取っています。どちらが人間なのかは、両親にもわかりません。中学生になったとき、母親が言い出して、母のもとにいたミカと父のほうにいたミカを交換します。取り替えてはみたものの、父親はやはり今まで一緒にいたミカを人間だと思ってしまいますし、母親は人間のミカにこだわるあまり、疑心暗鬼になってしまいます。

この話しを読むと「ブレードランナー」という映画を思い出してしまいます。「レプリカント」と呼ばれる人間そっくりの人造人間が人間の中に紛れ込んでいるという設定の映画です。「ブレードランナー」にも自分のことを人間だと思っているレプリカントが登場します。しかし、この話しの二人のミカのように、感情を持っているかのようなロボット(アンドロイド?)がはたして本当に作れるようになるのでしょうか。感情を模倣することは出来るでしょうが、感じたことを表現したり、コントロールしたりということは今の技術では出来そうもありません。他の教科の入試問題は解けても、国語で出るような登場人物の心情を問う問題などはきっと苦手ですよね。実生活において、人間そっくりのロボットが紛れていたとしても、わたしたちはコミュニケーションの部分で違和感を持つのではないでしょうか。AIなどの科学的なアプローチには、これから倫理的な問題が大きく関わってきそうです。もっとも試験中にそんなことを考えていたら時間が足りなくなりますが、いろいろ示唆に富んだ題材です。

大問一の問は全部で8問ありますが、漢字書き取り問題が1題、解答を記述させる問題が1問あります。

問一は漢字書き取り問題です。

問二は、母親がおたがいのところにいるミカを何度も交換してくれと言ってきたにもかかわらず、「父は受け付けなかった」のはなぜか、選択肢の中からふさわしいものを選びます。イには「どうにかしてロボットのミカを手に入れようと言いがかりをつけてくる早苗(=母)」とありますが、母親が手に入れたいのは人間のミカです。ウには「かけがいのない人間のミカを無価値なロボットと同等の存在として扱っているようで父には受け入れがたく感じられ」とありますが、母親が二人のミカを見比べているのは同等として扱っていないからですし、父親はロボットを無価値と決めつけているわけではないです。エにあるように父親が人間のミカを引き取ることができたと確信したことを示すような表現はありません。オには、父親が母親に呆れてとか、いらだたしく感じてとか書かれていますが、それよりむしろ二人のミカを自分たちの都合で振り回したくはなかったのでしょう。母親が「娘という存在自体に価値を見いだしていない」というアがふさわしいと言えます。

問三では、服を着替えたミカを見て、「ミカがいるのかと思った」と発言した父親ですが、その発言後の父親とミカの説明として最もふさわしいものを選択肢から選びます。アには「父にとっての『本物のミカ』に自分はなれないのだと知って絶望している』とありますが、絶望するほどではなさそうです。イには「父は人間のミカこそが『本物のミカ』だと思っていた」とありますが、そのようなことをうかがわせる記述はありません。また、ミカのほうも父親の発言までは自分がロボットなのかもしれないと疑うまでには至ってないです。ウには「父にとって『偽物』の自分は父の家にいられないと所在なく思っている』とありますが、この時点では父親の家にいられないとまでは思っていないようです。オには「ミカは自分が人間であることに疑いを抱いておらず」とありますが、文中に「『ミカ弐号』は私のほうだったのかもしれない」とありますのでそうともいえないようです。父親は自分が二人のミカを区別していたことに気づいて動揺し、ミカは父親にとって「本当のミカ」はもう一人のミカのほうなのだと気づいて居心地の悪さを感じているというエが正しいと言えます。

問四は自分が慣れ親しんだ方のミカを本物だと思い込んでいたことに気づいた父親が、自分のもとに来たミカとの関係を「時間かけて、つくっていくから」と言う場面についてです。イにあるように父親の気分が沈んでいる描写はありません。ウには「目の前のミカ」だけを本物だと思えるように気持ちを改めようとしている」とありますが、父親は本物とか偽物とかにこだわりたくないと思っているのではないでしょうか。エにあるように目の前のミカを元気づけようとしているようには読み取れません。オにあるように二人のミカの違いを見極めようとはしていません。「目の前のミカ」と新しく親子関係を築こうとしている」というアが一番ふさわしい答えでしょう。

問五は記述して解答する問題です。

「母さんのところへ戻るか?」と聞く父親に、ミカは「父さんは、どうして欲しいの?」と尋ね返します。すると父親は「オレのことはいいんだよ。ミカがどう思うかだよ。」という返答をします。ミカは「今さら、『オレのことはいいんだよ』は、ないんじゃないかな」と思うわけですが、そう思ったのはなぜかという問題です。71字以上80字以内で説明しなければなりません。71字から80字で説明するというのは決して少なくない量なので、表現力が問われます。

「どちらが人間でどちらがロボットかわからないのに、父は二人のミカの気持ちなど考えずに母のもとへ帰るかどうかを自分に決めさせようとしてひどいと思ったから。」(75字)という解答を作りました。

答えはいろいろ考えられます。両親それぞれが二人のミカを自分の手元に置きたいと考えたにもかかわらず今さら希望を聞くのはおかしいとか、父にとって本物のミカは今まで一緒にいたミカなのだという本音を言わないのは公平ではないとかいった内容を盛り込んでもいいかもしれません。

問六は父親から母親のところに戻るかと尋ねられたミカは、「相談する」と言った後、「自分に聞いてみる」と答えます。それを聞いて「父は『あぁ』と安心した顔つきになった」とあります。この場面の父親の説明としてふさわしいものを選択肢から選ぶ問題です。選択肢はすべて「他人に知られてしまうのではないか、という不安が解消された」で締めくくられています。どれを選ぶかは何に対する不安かの違いということになります。アには「早苗(元妻)との関係にいらだっていること」とありますが、元妻との関係を他人に知られてしまうことに対する不安を感じさせる記述はありません。ウには自分たちがロボットのミカを押し付けあっていること」とありますが、少なくとも父親にはロボットのミカを元妻に押し付けようという気はないようです。エとオは明らかな間違いです。イの「自分たちの都合で二人のミカを振り回している」というのがふさわしいです。

問七は二人のミカのどちらかが回収されるという状況の中、「わたしたちどーする?」とミカ弐号に聞かれたミカは顔をあげて「逃げよう」と言います。この場面のミカの説明としてふさわしいものを選択肢から選ぶ問題です。アを検討する必要はありません。イには「ミカ弐号にずる賢さを感じ」とありますが、本文のどこを読んでもミカ弐号のずる賢さに結びつきません。ウには「二人で母のもとから逃げ出して父のもとで暮らしていこうと決意している」とありますが、父のもとで暮らしていくというようなことはどこにも書いてありません。エとオはどちらがふさわしいか悩みます。ただ、エにあるように「一度は自分の運命をおとなしく受け入れる覚悟をした」とまで言えるのかは曖昧です。オの選択肢がもっともふさわしいでしょう。

問八は生徒たちの感想が6つ並べられています。その中から作品の解釈として明らかな間違いを含むものを2つ選びます。この問題も手強いです。いろいろな解釈をしているので、生徒たちの感想を読むのにも時間がかかります。アには「本文中の『ロボット』という呼び方には親しみが込められている」とありますが、母親の発言内容からはむしろ蔑ろにする気持ちが表れています。オには「ミカ弐号は回収されることになっているから」とありますが、どちらが人間なのかは不明です。また、「父は自分が二人のミカと会えなくなる覚悟でミカの意志を確認した」とありますが、二人のミカと会えなくなることを覚悟の上でのことなのかまでは本文からは読み取れません。それ以外の選択肢に間違いは含まれていないので、アとオが答えとなります。

●71字以上80字以内で解答を記述させる問題

大問二は戸谷洋志の論説「未来倫理」です。

私たちの行動は、それが何気ないものであったとしてもすぐ近くにある自分自身の将来に影響するのみならず、子孫や近くにいる人々を通じて遠い未来まで波及する。現代よりも前の時代には、人間が自然をどのように作り替えようとも、自然は自分で元の姿に戻っていた。ところが、近代になって自然への影響が未来世代の自然にまで及ぶようになった。人類に自然の自己修復能力を超えた力を与えたのが「技術」である。自然の本質は、人間が「実験」によって自然に対して積極的に働きかけ、その結果を検証することで解明される。自然を人間より優れたものとして模倣する態度は、自然を自らの関心に従って操作し、管理しようとする態度へと変わった。自然は人間によって支配することができる対象になってしまったのである。

問一は漢字書き取り問題です。

問二は現代世代が地球に対して影響を与えることによって未来世代に対して影響を与えるとしながら、「地球という表現はミスリーディングである」と言えるのはなぜかという問題です。アには「人間の生活環境とかけ離れたものは検討すべき対象ではないという誤解を招いてしまう」とありますが、筆者が想定している対象はもっと明確になっていて、人間自身の身体も含めていることを考え合わせると筆者の言いたいことからずれています。ウには「人間の内部と外部の区別は存在しないという間違った誤解を与えてしまう」とありますが、内部と外部の区別を慮るような記述はありません。エには「未来世代と地球を共有するという間接的な関わりがないかのような印象を与えてしまう」とありますが、そのような印象を持たれるとは思っていません。オには「概念やイメージで語られる空間は除外されるという勘違いを招いてしまう」とありますが、概念やイメージについては触れられていません。イが著者の言いたいことを書き表しています。

問三は「人類による自然への影響が未来までに及ぶことはなかった」とありますが、それはなぜかという問題です。アにあるように「資源の搾取は回復力に留意しながら慎重に行われていた」とありますが、本文には逆に人間が自然に甘えて搾取してきたことが書かれています。イには「自然の回復力が衰えてきた」とありますが、自然が衰えたのではなく、人間の方が自然の自己修復能力を超えたのです。ウにあるように前の時代も自然から与えられたものをただ受け取るだけではなかったです。森から木を刈りすぎたりしていました。オにあるように昔は限られた範囲の自然にしか働きかけていなかったなどとは書かれていません。エがふさわしいです。

問四は「こうした自然への甘えは、人間に対して、未来世代への自らの影響について配慮することも免除する」とあるがどうゆうことか、71字以上80字以内で説明しなさいという問題です。

「自然には自己修復能力が備わっているので、人間は自然から資源が枯渇するのではないかという不安に苛まれることなく、資源を収奪することが許されてしまうということ。」(78字)という解答を作りました。

問五は文中に傍線が引いてある「こうした技術観」とはどのような考え方か、71字以上80字以内で説明をしなさいという問題です。

「自然は人間よりも優れていて、自然の摂理にしたがったほうがずっと確実で信頼できるから、自然を観察し、本質を理解した上で、技術に使うか検証するというような考え方。」(79字)という解答を作りました。

問六は「ベーコンはもはや自然ファーストではなく、『技術ファースト』な考え方をしている」とあるが、「『技術ファースト』な考え方をしている」とはどういうことかという問題です。アにあるように「かつての自然を取り戻すためにそこで実験をする」といったことは書かれていません。イには実験のための装置を作り出して、その装置を通してありのままを観察するとありますが、「自然をただありのままに観察していても、自然を理解することはできない」としていて、ベーコンは自然を理解するためには実験しかないと考えていると筆者は言っています。ウには「技術を用いることで明らかになった地球の問題に向き合っていくしかない」とありますが、なんで地球の問題が出てくるのか不明です。エには容易に問題が解決できるとか、技術には即効性があるとか書かれていますが、本文にそのような説明はありません。オに書かれている内容が適しています。

問七は「ベーコンの発想はもはやアリストテレス的な『自然の模倣』ではなく、『自然の支配』を可能と見なすものとして捉えられる」とありますが、そう言えるのはなぜかという問題です。アはまったく違います。イの選択肢は判断が難しいです。自然を支配できるという発想がなければ、人間が自然に対して主体的に働きかけていくことはないかというと、そんなことはありません。そこまで読み取れたでしょうか。エには「内実が明らかになった自然はもはや崇拝の対象ではなくなってきた」とありますが、崇拝の対象ではなくなったかどうかについては触れられていません。オも該当しません。ウにあるように自然を操作することができると考えるようになるのです。

問八は生徒が本文にそって考えたことを5つ挙げてあります。明らかな間違いを含むものを一つ選ぶ問題です。5つの選択肢には、それぞれ違った考え方が示されていているので、どれを選んだらよいのか悩みます。アに問題ないことはすぐわかります。イで取り上げている放射性廃棄物の処理の問題はどうなのでしょう。間違いとするべきなのか迷います。コントロールできていない例として問題提起していると捉えれば、本文の内容に沿っていないとは言えないです。エは地球温暖化の問題で、まさしく出題文で扱っている内容です。オは視点を広げて語られていますが、言っていることは本文の趣旨に沿っています。ウで取り上げているのが、本文で取り上げている内容と異なっていて、コミュニケーションの問題で、インターネット社会における情報倫理の話しです。自然から学んだ事柄ではありません。

●難度の高い問題

 渋谷教育学園渋谷中学校の国語の問題はレベルが高く、一つ一つ見ていくといろいろ発見があり、長い文章となってしまいました。

 小説では登場人物の心情を問う問題が出ていますが、その心情も複雑で、なおかつ出題文の中で変化していくので、細やかな心の動きを捉える必要があります。論説は哲学者の考え方を紹介しつつ自分の考えを展開していたりするので、やはり研究者の書くような文章に慣れておいたほうがよいでしょう。

 記述問題には71以上、80字以内で書くような問題が出ていますから、表現力が問われます。自分の言葉で言いたいことを100字くらいでまとめる練習が必要です。選択問題も一目で対象外とわかるような選択肢はなく、分量もあるので速読が求められます。ゆっくり考えている時間はないかもしれません。

 受験対策としては、学校の授業だけでは不足すると思われるので、同レベルの問題を数多くこなして、十分、力を養っておく必要があるでしょう。